子育ては、ベンチャー企業よりも圧倒的成長できる場所。うんち漏れで騒然としたリビングより愛を込めて【文責・雨宮美奈子】

人生初めてとなる、子育てという未知の領域で全力投球の日々。しかしまあ、面白いんだわ子育ては。かわいらしく自我を持ち始める、小さな人間が目の前にひとり。さてわたしは今日も、どうやってこの子と向き合って行こうか。<文責・雨宮美奈子>
雨宮美奈子 2021.08.16
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※コロナワクチン2回目を摂取し、見事に副反応でダウンしていた先週頭。
ゆえに、こちらのニュースレター『文責・雨宮美奈子』を急遽お休みさせていただいておりました。楽しみにしていた方がいましたら、いやはや申し訳ない限りです……しかしこういうのはマイペースにやっていかねば、きっと続かない、今後もまた休むこともあるかもしれませんが、のんびりとお待ちいただければ幸いです。

さて毎回の書き出し、前置きがちょっと長いなと最近思っていたので、今後はいきなり本筋に入ってしまおうと思っています。それでは、よろしくどうぞ!

***

出産後に突然スタートした、母親《初心者モード》という未知なるゲームをプレイし始めて、早8ヶ月が経った。

何もかも手探りだった日々を乗り越えて、今ではふらりと肩の力を抜いてでも離乳食を食べさせられるようになり、暴れ回る子を見ても心は修行僧のよう、波風立たぬ精神を持てるようになり、もうこれ以上食べさせるのは無理だなと思った日には早々に諦める決断ができるようになりと、今ではすっかり母親中級者くらいにはなってきた。

子供を産む前まではずっと、「子供を産んだ人って、そのあとの話題が全部子供の話題ばかりだな」などと思っていたけれど、たぶん最近のわたしは外から見ればまさにそういうタイプの人間になってしまっている。子供がいない人にもっと話題合わせろよ、とこれを読むあなたは言うかもしれない。でもね、ごめんね。わたしもしつこく子供自慢したいわけじゃないの、それしか話題がないぐらい、日々の営みがすべて子供に乗っ取られてしまっているの、それ以外の話題を提供できない己に嫌気がさしているので、許して欲しい。

生後8ヶ月になった我が子は、むちむち、ぷにぷに、ぎゅぎゅっと水分と脂肪分と何かしらの可愛い未知なるものが肉体に詰まっているようで、なんとも魅惑の豊満ボディ。ご本人さまは日々きゃっきゃと楽しく赤ちゃんライフを満喫しており、人間界初心者とは思えないほどに毎日著しい成長を遂げている。昨日お座りができたと思えば、今日は拍手ができるようになっていて、その次の日にはおもちゃとおもちゃをぶつけて音を出すことを覚えている。
どこかのベンチャー企業に新卒で入るよりも、とんでもないスピードで赤ちゃんは日々、""圧倒的成長""をしている。毎日できることが増えている、一ヶ月も過ぎれば顔つきだって違う。だからベンチャー社員よ、赤ちゃんを敬うがいい。きっと、君たちにとっていいロールモデルになることだろう。

生後まもなくの頃、平均を大きく下回る2.1キロという低体重にまで落ちてしまって心配だった我が子の体重は、気がつけば8.5キロ。同じ月齢の子供と比べても平均以上だ。あのときのわたしの心配、なんだったの。今や生命力に満ちた4倍もの重量を伴って、父と母であるわたしたちの腕を、抱っこという強制命令のもとで逞しく鍛え上げてくれる。

そう、赤ちゃんは今日もわたしたちに試練を与え、鍛え上げてくれるのだ。その辺のベンチャー企業に入るよりも、圧倒的な速度で。

子育ての日々の中では、ときに大きなトラブルに遭遇することもある。
突発的な発熱や鼻水はいつも心配だし、予想していない動きをされることでソファやベッドなどからなぜか落下してしまうこともあるし、何をやっても泣き止まないときは何をやってもダメだしで、ときに途方に暮れた親たちはため息をつくしかなくなる。

その中でも頻繁に遭遇し、なおかつ大変なトラブルといえば、そう、うんちである。

ある日のわたしは、我が子とリビングでともに遊んでいた。
寝返りができるようになったばかりで、寝返りが楽しくて仕方がない我が子はコロコロと何度も寝返りを打ち、寝返りだけで進むという技を覚えた。ハイハイもできない我が子にとって、寝返りはまさに革命的手段、徒歩の代用。前進あるのみと言わんばかりに所構わず、寝返りでとにかく突き進んでいく。

仕方がないので、母であるわたしもまた、寝返りをしながら子を追いかける。リビングからキッチンへと寝返りで向かおうとする小さな0歳児を、産後太りの巨体を揺らして追いかける30歳児。リビングの窓からは、気持ちのいい日差しが降り注いでいる。
追いかけっこに気がついた我が子は、キャッキャと転がりながら楽しそうに笑い出す。天使の笑み、癒しの赤ちゃんスマイル、たまらない。その笑顔の口元からは、信じられない量のよだれが解き放たれており、床にはきらめく透明の液体が散見された。

これはもう仕方ない、あとで拭こう、と思いながらよだれを無視して転がり追いかけるわたし。そして起き上がると、わたしの前髪は湿っていたのだった、なぜ。いつの間にか、わたしの髪の毛で赤ちゃんのよだれを拭いてしまっているような状況となっていたようだ。でもそんなことを気にしていては子育てはできない、わたしは0歳児相手でも全力投球で遊びたいのだ、それがわたしが親として決めているモットーなのである。

……などと考えていると、ふと香ばしい匂いがわたしの鼻をかすめた。はいはい、瞬時に察する。我思う、ここにうんち在り。
ああもう、我が天使ってば、今日も可愛いんだから!可愛いうんちをしちゃったわねとほっこり、ママに任せてねと言わんばかりに笑顔でおむつ替えへの決意をする。

さーて、仕方ないですね、おむつ替えしますよ。
そう言いながら転がり続ける我が子を持ち上げた瞬間、香ばしい匂いがさらに強く、ふわりと濃厚に宙を舞った。匂いが宙を舞うという表現が正しいのかどうかはわからない、ただ本当に宙を舞ったとしか言いようのないその強い匂いは、緊急事態が起きていることをわたしに伝えていた。

恐ろしい、でも、振り返るしかない。

わたしは決意し、後ろを振り返った。するとそこには、ここまでふたり転がってきた道のり、足跡のようにスタンプされているうんち。我が天使より漏れたうんちが、フローリングに、カーペットに、ふたりで通ってきたそのすべての上に鎮座していた。
それはつまり、よだれに気を取られてしまっていた、後を追っていたわたしの服にもしっかりとうんちがスタンプされている訳である。

思わずリビングで、ひとり天を仰ぐ。
天井のLED電球と目が合う。でも、誰も助けてくれるわけじゃないんだよなー……。

何も知らない、無垢な我が子はこちらを見て、にっこりと笑っている。守りたい、この笑顔。でもこの子の股をよく見てみれば、そこには緊急事態宣言としか言いようのない状況のうんち漏れ。さあ始まりました、これが子育ての醍醐味です。

こちら母、髪の毛には赤ちゃんのよだれがべっちゃり、お気に入りのVivienne Westwoodのシャツには赤ちゃんのうんちがぺったり。この姿でわたしは今から、緊急措置を行う必要がある。そう、繰り返すがこれが子育ての醍醐味です。

子育てというのはときに、的確で迅速な判断が求められる。
その判断は、ビジネスにおける判断よりも、ときに悩ましいレベルの高いものであることが多い。

まず、整理しよう。
ここで対処すべき問題は、赤ちゃん、母、床の3点である。

以下に、わたしが当時実際にその瞬間に考えたことをすべて書き出してみる。

① 赤ちゃん

本件の当事者。本人の下半身より、うんち漏れが発生。服も下着も全部手洗いで染み抜きをする必要がある。察するに、下半身は一回シャワーを浴びないと現状復帰不可なほどひどい状況。なおかつ赤ちゃんを単体で短時間でも放置すれば、うんちがついた手で口元を触ったり、おもちゃを触る二次災害まで予測される。ゆえに、最優先事項として対処する必要あり。

② 母(わたし)

本件の被害者、及び、本件発見への遅延による過失が疑われる者。つまり、事件に気づくのが遅くて被害を拡大させてしまった人間。髪の毛についてしまったよだれ水分は自然蒸発を待つとして、服に着いたうんちは自ら服を脱ぐことにより即時の対処が可能の模様。ただしこの服、赤ちゃんの服とともに洗う必要あり。本事件をリーダーシップを持って解決へと導くべき存在。

③ 床(リビング)

床についただけの汚れは拭けば良さそうなため、最後に後回しできそうな事項。ただしカーペット、お前は別だ。カーペットも2人の服とともに、シミになる前に早めに洗う必要ありの模様。

こう整理してみると、やるべき順番が明確となる。では、粛々と対処していこう。

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